すねの内側(脛骨神経の領域)
くるぶしの上、すねの骨の内側の縁にある三陰交(さんいんこう)のあたりに細い鍼を置き、弱い電気を流します。海外で専用機器による脛骨神経刺激療法として推奨度が高い部位で、体への負担が最も少なく、衣服を脱がずに受けられます。頻尿、尿意切迫感、臓器が主座の骨盤痛で最初に選びます。
狙い:過敏になった膀胱の反射を落ち着かせる
泌尿器科の治療と並行する鍼灸
仕組みが違えば、鍼を置く場所も変わる
トイレが近い、急な尿意を我慢できない。咳やくしゃみで漏れる。下腹部や会陰の痛みが3か月以上続く。同じ泌尿器の悩みでも、仕組みは膀胱の過敏、骨盤底のゆるみ、骨盤まわりの慢性の痛みの3つに分かれ、鍼を置く場所も、あわせて行うことも変わります。泌尿器科の治療と並行して、鍼灸が何を確かめ、何を測り、どこに働きかけるのかを整理しました。
金山駅 北口すぐ・2026年秋 開院予定。執筆・監修は医師の高杉浩司です。
鍼灸の立ち位置
鍼灸は、泌尿器科の診断と治療に代わるものではありません。薬だけでは足りない部分を補う位置づけで、主治医の治療内容を確認したうえで行います。
尿を溜める、出すという働きは、膀胱の感覚が仙骨の高さで脊髄に入り、脳との間で「まだ溜めてよい」「もう出してよい」とやり取りすることで成り立っています。膀胱と尿道を下から支えるのが骨盤底の筋肉で、ここを陰部神経が通ります。頻尿は膀胱が過敏になり、少ししか溜まっていないのに「いっぱい」の信号を出す状態。尿漏れは骨盤底のゆるみ。骨盤痛は臓器・神経・筋肉のいずれかが中心です。仕組みが違えば、対処も変わります。

仕組みが違えば、鍼を置く場所も、あわせて行うことも変わります。ご自身に近いものからお読みください。

膀胱が過敏になり、少ししか溜まっていないのに縮んでしまう状態。過活動膀胱と呼ばれます。
くわしい解説を読む
膀胱と尿道を下から支える骨盤底がゆるんだ状態。腹圧性尿失禁と呼ばれます。
くわしい解説を読む
慢性前立腺炎や間質性膀胱炎として診断されることが多い、骨盤まわりの慢性の痛みです。
くわしい解説を読む排尿の悩みの多くは、泌尿器科の治療と並行して鍼灸を進められます。ただ、まれに急いで治療が必要な病気が隠れていることがあります。次のようなときは、鍼灸より先に受診してください。
診断がついている方は、主治医の治療内容を確認したうえで施術に入ります。飲んでいる薬(利尿薬など)はお伝えください。
次にあてはまる場合は、施術より先に受診をお願いしています。
すぐに救急へ
その日のうちか、翌日に受診
痛みのない血尿や、中高年で急に増えた頻尿は、急ぎませんが、一度泌尿器科か内科で調べてもらってください。
膀胱そのものに鍼が直接届くわけではありません。鍼が働きかけるのは、膀胱の反射に関わる神経の入口と、骨盤底の筋肉と神経です。体の外側から狙えるのが、すねの内側、仙骨のまわり、骨盤底の3つのエリアで、症状の種類によって始める場所と切り替える順番が変わります。
くるぶしの上、すねの骨の内側の縁にある三陰交(さんいんこう)のあたりに細い鍼を置き、弱い電気を流します。海外で専用機器による脛骨神経刺激療法として推奨度が高い部位で、体への負担が最も少なく、衣服を脱がずに受けられます。頻尿、尿意切迫感、臓器が主座の骨盤痛で最初に選びます。
狙い:過敏になった膀胱の反射を落ち着かせる
お尻の上、仙骨の中ほどにある中髎(ちゅうりょう)とその上下の穴の位置です。膀胱の反射に最も近い入口で、日本の過活動膀胱診療ガイドラインにも使用部位として挙げられています。すねの刺激で変化が乏しいときに加え、骨盤内のうっ滞を伴う痛みでも使います。
狙い:反射の抑制と、骨盤内の循環
お尻の下、肛門の脇にある会陽(えよう)とその周囲です。腹圧性尿失禁では、骨盤底筋トレーニングを主軸に、速めの周波数の鍼通電を20〜30分上乗せします。通電中は肛門のまわりがきゅっと締まる感覚が出て、自分で締めるときの目印になります。
狙い:締まる感覚を引き出し、トレーニングの効率を上げる
骨盤痛や、骨盤底のこわばりが引き金の頻尿では、狙いが逆になります。ゆっくりした周波数か通電なしで、骨盤底とその外側の深部の筋肉(内閉鎖筋のまわり)に届かせ、こわばりをゆるめます。慢性骨盤痛の研究では、浅い刺激より深部に届く刺激の方が良い結果だったと報告されています。
狙い:こわばりをゆるめる。深部に届く刺激

鍼通電の刺激はごく弱く、トントンと脈打つ感覚です。ペースメーカーなどの植込み型の医療機器をお使いの方、妊娠中または妊娠の可能性がある方は事前にお伝えください。骨盤底への鍼は下着を部分的にずらして行うため、事前に説明し、同意をいただいてから行います。不安な方は、すねと仙骨だけで進めることもできます。
海外の臨床研究は、週1〜3回を4〜12週続ける設計が中心です。当院では週1回で始め、最初に選んだ部位で4回は続けます。毎回変えると、どの部位に反応があったかが分からなくなるからです。
問診と、泌尿器科での診断・治療内容・内服薬の確認。質問票に答えていただき、2〜3日分の排尿日誌をお願いします。尿漏れの方は1週間の漏れた回数を記録し、骨盤底筋トレーニングの最初の1回を一緒に行います。
週1回。最初に選んだ部位で続けます。頻尿はすねの内側から、腹圧性の尿漏れは骨盤底から、骨盤痛は痛みの主座から始めます。
排尿日誌と質問票、漏れた回数、痛みの強さを初回と並べます。変化があれば継続、なければ次の部位へ切り替えます。トレーニングは効果が出るまで2か月はかかるので、4回目で変化がなくても続いていればそのまま進めます。
目標に届けば間隔を空けて維持します。届かなければ、泌尿器科での再評価と、薬や手術など他の治療の相談をお勧めします。
「なんとなく良くなった」ではなく、泌尿器科でも使われている物差しで確かめます。目標は「1回に溜められる量が増え、回数が減ること」「漏れる回数が減ること」「痛みの点数が下がること」に置きます。
排尿した時刻と量を計量カップで記録します。読み取るのは、1日の回数、1日の総量、夜間の量、1回の最大量、1回の平均量の5つ。1回の量が少なく回数が多ければ膀胱の問題、量そのものが多ければ尿の量の問題で、後者は鍼灸より先に医療機関での確認が必要です。
初回と4回ごと過活動膀胱症状スコア(OABSS)、男性は国際前立腺症状スコア、尿漏れは尿失禁の症状質問票、痛みが主なら慢性前立腺炎症状スコアなど。いずれも泌尿器科で使われている公開の質問票で、日誌と合わせて目標を決めます。
初回と4回ごと尿漏れの方は1週間あたりの漏れた回数とパッドの使用状況、骨盤痛の方は痛みの強さ(0〜10)を記録します。慢性の痛みは良い日と悪い日の波があるので、1回ごとの変化より4回ごとの平均で見ます。
毎回記録し、4回ごとに並べる
数字は「研究でそういう報告がある」という意味で、効果を保証するものではありません。効果には個人差があります。
成人の過活動膀胱に対する鍼治療をまとめた2022年のレビューでは、鍼は抗コリン薬と比べて症状改善率がわずかに高いという結果でした。鍼と偽鍼の差はまだ確立していません。
Hargreaves E, et al. Cochrane Database Syst Rev 2022
鍼通電と抗コリン薬を併用した群の方が、抗コリン薬だけの群より24時間の排尿回数が減ったという研究のまとめです。泌尿器科の薬は膀胱の受容体に、鍼は神経の反射に働き、働く場所が違います。
Zhao Y, et al. Medicine 2018
頻尿で受診した方の約3割が、膀胱ではなく骨盤底の筋肉のこわばりが引き金のタイプだったという米国の調査です。すねから仙骨、骨盤底へと部位を切り替える根拠です。
Ackerman AL, et al. Sci Rep 2023
腹圧性尿失禁の女性304人の比較試験では、8週間の骨盤底筋トレーニングに鍼通電を加えた群で、偽の通電より尿漏れの量と症状スコアが改善し、8か月後も差が保たれていました。
Tang K, et al. Eur Urol Focus 2023
慢性骨盤痛で深い刺激と浅い刺激を比べた研究では、30パーセント以上改善した人の割合が、浅い刺激の21パーセントに対して深い刺激で56パーセントでした。当院が骨盤痛に深部の刺激を使う根拠です。
Zhou M, et al. BMC Complement Altern Med 2017
日本の過活動膀胱診療ガイドライン(第3版・2022年)では、鍼治療は「行ってもよい(C1)」の段階で、仙骨まわりを含む使用部位が挙げられています。選択肢として認められているという意味で、薬や手術の代わりではありません。腹圧性尿失禁では骨盤底筋トレーニングが日本と欧州のガイドラインで第一に勧められています。細菌が関わらない慢性前立腺炎への鍼は、欧州泌尿器科学会のガイドライン(2025年)が最も強い段階で推奨していますが、日本の2017年のガイドラインには記載がありません。
鍼灸院に通わなくてもできることです。症状によって方向が逆になるものがあるので、確かめてから始めてください。
このページは医師が執筆・監修し、施術はハリメド鍼灸院の鍼灸師が行います。各解説の内容について医師が確認した日付は、記事ごとに表示します。
豊田土橋リウマチクリニック 院長/医師×鍼灸師プラットフォーム「HARI×MED(ハリメド)」管理者
金山ハリメド鍼灸院(2026年秋 開院予定)
過活動膀胱診療ガイドライン 第3版(2022):鍼治療は「C1 行ってもよい」
過活動膀胱の日本のガイドラインでは、鍼治療は「行ってもよい(C1)」の段階です。選択肢として認められているという意味で、薬の代わりではありません。
初回のご相談で多い質問をまとめました。ここに無いことは、問診のときに何でもお聞きください。
「治る」と約束はできません。目標にするのは、1回に溜められる量が増えて回数が減ること、漏れる回数が減ることです。
排尿日誌と質問票を初回と4回ごとに同じ方法で測り直し、数字の変化で判断します。変化がなければ部位を見直し、それでも動かなければ泌尿器科での再評価をお勧めします。
できます。泌尿器科の薬は膀胱の受容体に直接働き、鍼は神経の反射を通じて働くので、働く場所が違います。鍼通電と薬を併用した群の方が、薬だけより24時間の排尿回数が減ったという研究のまとめもあります。
薬をやめて鍼に替えるのではなく、薬に鍼を足す考え方です。主治医に「鍼も受けている」と伝えておくと安心です。自己判断で薬をやめる理由にはなりません。
排尿日誌で確かめてからです。夜間の尿量が1日の総量の3分の1を超える夜間多尿は、高血圧、糖尿病、睡眠時無呼吸などが背景にあることが多く、膀胱に働きかけても解決しません。
初回に2〜3日分の日誌をお願いし、膀胱に溜められないタイプか、尿の量そのものが多いタイプかを分けます。後者の方は、鍼灸より先に内科や泌尿器科での確認をお願いします。
主軸は鍼ではなく、骨盤底の筋肉を自分で締めるトレーニングです。日本と欧州のガイドラインで第一に勧められ、1か月で約3割、2か月以上で6割超の改善という報告があります。
鍼通電は、締まる感覚をつかみやすくする上乗せです。トレーニングに鍼通電を加えた群で偽の通電より改善が大きかったという比較試験がありますが、自分で締める力は自分で練習しなければ戻りません。
多くの方がそうです。骨盤底は目に見えず、「締めてください」と言われると、お腹に力が入る、お尻や太ももを締める、息を止めるという間違った動きになりがちです。腹圧を上げる動きは、逆に漏れを誘います。
当院では最初の1回を一緒に行い、肛門と尿道をすぼめる感覚だけを取り出します。鍼通電中に出る「きゅっと締まる感覚」を、自分で締めるときの目印にすることもできます。
男性の慢性前立腺炎の8〜9割は細菌が関わらないタイプで、薬の治療が確立していません。このタイプへの鍼治療は、欧州泌尿器科学会のガイドライン(2025年)で最も強い段階で推奨され、米国の学会も2025年に条件付きで推奨しました。
当院では、痛みの中心が臓器か、神経か、筋肉かを見立てて部位を選び、4回ごとに痛みの強さと質問票で測り直します。主治医の診断と治療内容を確認したうえで施術に入ります。
痛みを我慢する施術ではありません。重だるい響きが出る程度で、刺激の強さはその場で調整します。研究で報告された有害事象は、大部分が軽い皮下出血でした。
深部に届く刺激を使うのは、浅い刺激より良い結果だったという研究の報告があるからです。仙骨と骨盤底は内出血が出やすい場所で、数日で消えますが、気になる方は事前にお伝えください。
海外の臨床研究は週1〜3回を4〜12週続ける設計が中心です。当院では週1回で始め、最初に選んだ部位で4回は続け、4回目に排尿日誌や質問票で測り直します。
8〜12回で判定し、目標に届けば間隔を空けて維持、届かなければ泌尿器科での再評価をお勧めします。骨盤底筋トレーニングは効果が出るまで2か月以上かかるので、4回目で変化がなくても続いていればそのまま進めます。
テーマごとに、何が起きているのか、何を確かめ、どこにどういう狙いで鍼をするのか、研究で分かっていることを1本ずつ書いています。執筆・監修は医師の高杉浩司です。
排尿日誌で測る。頻尿の正体は「溜められない」のか「量が多い」のか「なんとなく良くなった」ではなく、数字で確かめる。2〜3日、排尿した時刻と量を記録するだけで、頻尿の正体が膀胱の問題か尿の量の問題かが分かり、鍼灸で扱ってよいかの判断にもなります。つけ方と、5つの数字の読み方を説明します。
骨盤底筋トレーニングと鍼通電。締める感覚をつかみ、続ける腹圧性尿失禁の第一の対処は、骨盤底の筋肉を自分で締めるトレーニングです。ただし締める感覚がつかめない方が多く、続かなければ効果は出ません。当院で最初の1回を一緒に行う理由、正しいやり方、鍼通電を上乗せする場合の考え方をまとめました。
慢性骨盤痛と鍼灸。痛みの主座を見立てて、深部に届く刺激を使う下腹部、会陰、肛門、尿道の痛みが3か月以上続き、検査では異常がない。慢性前立腺炎や間質性膀胱炎として診断されることが多い骨盤まわりの慢性の痛みです。痛みの中心が臓器か神経か筋肉かを見立てて部位を選ぶ考え方と、研究で分かっていることをまとめました。
咳やくしゃみでの尿漏れと鍼灸。骨盤底のトレーニングが主軸、鍼通電は上乗せ咳、くしゃみ、笑ったとき、走ったときに漏れる腹圧性尿失禁。骨盤の底で膀胱と尿道を支える筋肉がゆるみ、腹圧がかかった瞬間に支えきれずに漏れます。主軸は自分で締めるトレーニングで、鍼通電はその効率を上げる上乗せです。
頻尿・尿意切迫感と鍼灸。過敏になった膀胱の反射を落ち着かせるトイレが近い、急に強い尿意が来て我慢できない、夜中に何度も起きる。多くは膀胱が過敏になり、少ししか溜まっていないのに「いっぱい」と信号を出している状態です。鍼灸がどこに働きかけるのか、薬との関係、部位の切り替え方を整理しました。
泌尿器の悩みに鍼をどこに置くか。下腿・仙骨・骨盤底の刺鍼部位と狙い頻尿、尿漏れ、骨盤痛で鍼をする場所は、すねの内側、仙骨のまわり、骨盤底の3つのエリアに分かれます。それぞれの狙い、症状によって始める場所と切り替える順番がどう変わるか、鍼通電の流れと安全のことをまとめました。