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泌尿器と鍼灸

骨盤底筋トレーニングと鍼通電。締める感覚をつかみ、続ける

腹圧性尿失禁の第一の対処は、骨盤底の筋肉を自分で締めるトレーニングです。ただし締める感覚がつかめない方が多く、続かなければ効果は出ません。当院で最初の1回を一緒に行う理由、正しいやり方、鍼通電を上乗せする場合の考え方をまとめました。

公開 更新 症状:尿漏れ・頻尿・尿意切迫感

骨盤底筋トレーニング: 1セットの流れ

10秒締めて30秒休む、10回で1セット、1日5セットという骨盤底筋トレーニングの流れと注意点の図解
骨盤底筋トレーニングの1セットの流れ。お腹やお尻に力を入れず、肛門と尿道をすぼめる感覚だけを使います。

この記事の要点

  • やり方は、ゆっくり10秒締めて30秒休む。10回で1セット、1日5セット。お腹やお尻に力を入れず、肛門と尿道をすぼめる感覚だけを使います。
  • 難しいのは感覚をつかむことと、続けることです。当院は最初の1回を一緒に行い、4回ごとに続いているかを確かめます。
  • トレーニングだけで足りない方には鍼通電を加え、締まる感覚を引き出して効率を上げます。頻尿で骨盤底がこわばっている方は、逆にゆるめる練習をします。

この症状の正体

骨盤底の筋肉は、骨盤の底にハンモックのように張られ、膀胱、子宮、直腸を下から支え、尿道と肛門を締めています。出産、加齢、体重の増加、慢性の咳や便秘でのいきみで、この筋肉はゆるみます。ゆるむと、咳やくしゃみの瞬間に尿道を締めきれず、漏れます。

一方で、逆の問題もあります。骨盤底の筋肉が常にこわばっている状態です。薬が効きにくい頻尿のうち約3割は、膀胱ではなく骨盤底のこわばりが引き金だったという米国の調査があり、慢性骨盤痛でも9割以上にこわばりが見られます。この方々に「締める練習」をすると、かえって悪くなります。

つまり、骨盤底の筋肉は「ゆるみすぎ」と「こわばりすぎ」の両方が問題になり、どちらなのかを確かめてから練習の方向を決める必要があります。腹圧性尿失禁は前者、こわばりによる頻尿や骨盤痛は後者です。

なぜ鍼灸が関わるのか

骨盤底筋トレーニングは、日本と欧州のガイドラインで腹圧性尿失禁の第一の治療として勧められ、1か月続けた方の約3割、2か月以上続けた方の6割超で改善したという報告があります。効果ははっきりしているのに、うまくいかない方が多い理由は2つです。

1つは、締める感覚がつかめないこと。骨盤底は目に見えず、「締めてください」と言われても、お腹に力が入って腹圧が上がる、お尻や太ももを締める、息を止める、という間違った動きになりがちです。腹圧を上げる動きは、逆に漏れを誘います。当院が最初の1回を一緒に行うのは、肛門と尿道をすぼめる感覚だけを取り出すためです。

もう1つは、続かないこと。効果が出るまで2か月はかかり、その前にやめてしまう方が多くいます。当院は4回ごとの測り直しで、続いているかを確かめ、続け方を一緒に工夫します。

鍼通電の役割は、この2つの補助です。骨盤底の筋肉とそこを通る神経への通電で、締まる感覚を体で確かめられます。腹圧性尿失禁の女性304人の比較試験では、8週間のトレーニングに鍼通電を加えた群で、偽の通電より尿漏れの量と症状スコアが改善し、8か月後も差が保たれていました。

補足

鍼通電はトレーニングの代わりにはなりません。通電中に筋肉が締まっても、自分で締める力は、自分で練習しなければ戻りません。

鍼灸の前に確かめること

  • 腹圧性尿失禁か、頻尿か、骨盤痛か。症状によって、締める練習かゆるめる練習かが変わります
  • 骨盤底の筋肉がゆるんでいるか、こわばっているか。問診と触診で確かめます
  • 出産歴、骨盤臓器脱の有無。膣から何かが下がる感じがある場合は、トレーニングより先に婦人科か泌尿器科へ
  • 血尿、排尿時の痛み、発熱、尿が出にくい感じがないか。どれか一つでもあれば、鍼灸やトレーニングより先に泌尿器科か内科を受診してください
  • 慢性の咳、便秘、体重。骨盤底に負担をかける要因
  • 現在の練習の有無と、やり方。間違った動きで続けていないか

ご注意

頻尿や骨盤痛で骨盤底がこわばっている方に「締める練習」をすると、悪化することがあります。練習の方向を確かめてから始めてください。

どこに、どういう狙いで鍼をするか

トレーニングのやり方

椅子に座るか、仰向けで膝を立てた姿勢で行います。

  1. ゆっくり締める。肛門と尿道をすぼめる感覚で、10秒かけて締めます。お腹、お尻、太ももに力を入れない。息を止めない
  2. 休む。30秒、完全に力を抜きます。ゆるめる時間も練習の一部です
  3. 10回くり返して1セット
  4. 1日5セットを目安に。朝、昼、夕、入浴後、就寝前など、生活に結びつけると続きます

正しくできているかの確かめ方は、締めたときにお腹が硬くならないこと、お尻が持ち上がらないこと、呼吸が止まらないことです。慣れてきたら、咳やくしゃみ、重い物を持つ直前に締める癖をつけます。

骨盤底筋トレーニング: 1セットの流れ

10秒締めて30秒休む、10回で1セット、1日5セットという骨盤底筋トレーニングの流れと注意点の図解
骨盤底筋トレーニングの1セットの流れ。お腹やお尻に力を入れず、肛門と尿道をすぼめる感覚だけを使います。

鍼通電の上乗せ

トレーニングだけで足りない方に、骨盤底の筋肉とそこを通る陰部神経の領域(お尻の下、肛門の脇)への鍼通電を加えます。速めの周波数で20〜30分流し、通電中は肛門のまわりがきゅっと締まる感覚が出ます。この感覚を覚えて、自分で締めるときの目印にします。

こわばっている方は、ゆるめる練習

骨盤底がこわばっている頻尿や骨盤痛の方は、逆です。息を吐きながら肛門のまわりの力を抜く練習と、骨盤底とその外側の深部の筋肉への鍼で、こわばりをゆるめる方向に働きかけます。

トレーニングに鍼通電を足すと何が変わるか

骨盤底筋トレーニングに鍼通電を加えた場合の8週と8か月の経過を時間軸で示す図解
トレーニングに鍼通電を加えた群で、8週の改善が偽の通電より大きく、8か月後も差が保たれていました。

時期と通い方の目安

  1. 初回:症状の確認、ゆるみかこわばりかの見立て、トレーニングの最初の1回を一緒に行う
  2. 1〜4回:週1回。やり方の確認と修正。必要なら鍼通電を加える
  3. 4回目:漏れた回数と質問票で測り直す。続いているかを確かめ、続け方を工夫する
  4. 8〜12回:2か月を過ぎた頃から効果が出ます。目標に届けば間隔を空けて維持。トレーニングは続ける

分かっていること(研究の報告)

数字は「研究でそういう報告がある」という意味で、効果を保証するものではありません。効果には個人差があります。

  • 骨盤底筋トレーニングは、日本と欧州のガイドラインで腹圧性尿失禁の第一の治療です。1か月で約3割、2か月以上で6割超の改善という報告があります。
  • 高齢女性360人の比較試験では、12週間のトレーニングで1週間あたりの漏れた回数が11回から4回に減りました。個別指導と集団指導で効果に差はありませんでした(2020年)。
  • トレーニングに鍼通電を加えた群で、8週の改善が偽の通電より大きく、8か月後も差が保たれていました(2023年)。11試験・約1,500人のレビューでも同じ方向です(2025年)。
  • 頻尿で受診した方の約3割が骨盤底のこわばりが引き金だったという調査があり、締める練習が合わない方がいることの根拠です(2023年)。

ポイント

トレーニングは、やり方が正しくて、2か月以上続いて、初めて効きます。当院が受け持つのは「正しく」と「続く」の2つで、締める力そのものを戻すのはご本人です。

あわせて行うこと

  • 練習を生活に結びつける。歯磨き、入浴、就寝前など、決まった場面で
  • 咳やくしゃみ、重い物を持つ直前に締める癖をつける
  • 便秘を解消する。いきむ動作は骨盤底に負担をかけます
  • 体重を整える。腹圧が減ると骨盤底の負担が減ります
  • 2か月は続ける。4回目で変化がなくても、やめない

咳やくしゃみでの尿漏れの考え方、頻尿の考え方、骨盤痛の考え方は、それぞれの解説にまとめています。