この記事の要点
- 排尿日誌は、2〜3日、排尿した時刻と量を記録する用紙です。泌尿器科でも使われ、頻尿の正体を知る唯一の方法です。
- 読み取るのは5つの数字。1日の回数、1日の総量、夜間の量、1回の最大量、1回の平均量。
- 1回の量が少なく回数が多ければ膀胱の問題。量そのものが多ければ尿の量の問題で、鍼灸より先に医療機関での確認が必要です。
この症状の正体
「トイレが近い」という同じ訴えでも、中身は2つに分かれます。1つは、膀胱に溜められない。少ししか溜まっていないのに尿意が来て、1回の量が少なく、回数が多い。もう1つは、尿の量そのものが多い。1回の量はふつうなのに、総量が多いために回数が増える。
この2つは、対処がまったく違います。前者は膀胱の過敏が本態で、鍼灸が働きかける対象です。後者は、水分の摂りすぎ、糖尿病、利尿薬、夜間だけ尿が多くなる夜間多尿など、全身の問題が背景にあり、膀胱に働きかけても解決しません。
どちらなのかは、本人の感覚では分かりません。問診でも分かりません。排尿日誌で、時刻と量を実際に記録して初めて分かります。だから当院は、初回に2〜3日分の日誌をお願いします。
なぜ鍼灸が関わるのか
鍼灸院が排尿日誌を使う理由は3つあります。
1つ目は、鍼灸で扱ってよい状態かを判断するためです。夜間の尿量が1日の総量の3分の1を超える夜間多尿は、高血圧、心不全、糖尿病、睡眠時無呼吸などが背景にあることが多く、鍼灸の対象ではありません。日誌でこれが見つかれば、施術より先に医療機関での確認をお勧めします。
2つ目は、目標を決めるためです。1回の最大量が150ミリリットルしかない方の目標は、1回に溜められる量を増やすことです。回数が多くても1回の量がふつうなら、目標は別にあります。日誌がなければ、目標が決まりません。
3つ目は、変化を確かめるためです。鍼灸の施術4回ごとに同じ方法で日誌をつけ直し、5つの数字を並べます。「なんとなく楽になった」ではなく、1回の最大量が150から220に増えた、夜間の回数が3回から1回に減った、という形で確かめます。変化がなければ部位を見直し、それでも動かなければ泌尿器科での再評価をお勧めします。
補足
日誌は泌尿器科でも同じものを使います。鍼灸院でつけた日誌をそのまま主治医にお見せいただけるよう、泌尿器科で使われている形式に合わせています。
鍼灸の前に確かめること
日誌を始める前に、次を確認します。
- 血尿、膿のような尿、排尿時の痛み、発熱、尿が出にくい感じがないか。どれか一つでもあれば、日誌や鍼灸より先に泌尿器科か内科を受診してください
- 利尿薬、血圧の薬、糖尿病の薬など、尿量に影響する薬を飲んでいないか
- 1日に飲んでいる水分の量と種類。カフェイン、お酒、就寝前の飲み物
- 泌尿器科の質問票(過活動膀胱症状スコア、男性は国際前立腺症状スコア)の点数
- 漏れがあるか。あれば1週間あたりの回数
どこに、どういう狙いで鍼をするか
この解説は測り方が主題なので、日誌のつけ方と読み方を書きます。
つけ方は簡単です。2〜3日間、排尿するたびに時刻と量を記録します。量は、100円ショップにもある計量カップで測ります。漏れがあった場合は、その時刻と「あり」を書きます。飲んだ水分の量と、急な尿意があったかどうかをメモに添えると、さらに読み取りやすくなります。平日と休日を1日ずつ含めると、生活の違いが分かります。
排尿日誌: 時刻と量を2〜3日記録する

読み取るのは、次の5つの数字です。
- 1日の回数。目安は5〜7回。8回以上が頻尿の目安です
- 1日の総量。目安は1,000〜1,500ミリリットル。2,500を超えると多尿が疑われます
- 夜間の量。就寝後から起床時の最初の排尿までの合計。1日の総量の3分の1を超えると夜間多尿です
- 1回の最大量。目安は200〜400ミリリットル。これが膀胱に溜められる量の目安になります
- 1回の平均量。最大量との差が大きいほど、尿意に振り回されている状態です
1回の量が少なく回数が多ければ、膀胱に溜められないタイプで、鍼灸が働きかける対象です。総量そのものが多い、あるいは夜間の量が3分の1を超えるなら、尿の量の問題で、鍼灸より先に医療機関での確認が必要です。
日誌から読み取る5つの数字

時期と通い方の目安
初回の前に2〜3日分をつけていただき、初回に一緒に読みます。施術4回ごとに同じ方法でつけ直し、5つの数字を前回と並べます。
- 初回:日誌を読み、膀胱の問題か尿の量の問題かを分ける。質問票と合わせて目標を決める
- 4回目:日誌をつけ直す。1回の最大量、回数、夜間の回数の変化を見る
- 8回目、12回目:同じ方法で。目標に届けば間隔を空けて維持。届かなければ部位を見直すか、泌尿器科での再評価をお勧めする
日誌の記録は、ご希望があれば泌尿器科との情報共有に使います。同じ形式なので、主治医がそのまま読めます。
分かっていること(研究の報告)
- 排尿日誌は、日本の過活動膀胱診療ガイドラインで、診断と経過観察の基本的な方法として位置づけられています。最低2日、できれば3日の記録が勧められています。
- 国際的な用語の基準では、1日8回以上を昼間頻尿、夜間に1回以上起きることを夜間頻尿の目安としています。
- 夜間の尿量が1日の総量の3分の1を超える状態を夜間多尿と呼び、夜間に2回以上起きる方の多くにこれが関わっているという報告があります。膀胱ではなく全身の問題として扱います。
- 過活動膀胱症状スコアは、国内で開発された質問票で、尿意切迫感の項目が2点以上かつ合計3点以上で過活動膀胱の目安とされます。
ポイント
排尿日誌は、鍼灸を受けるかどうかを決める前に、ご自身でつけられます。2〜3日の記録で、頻尿の正体が分かります。泌尿器科の受診にも、そのまま役立ちます。
あわせて行うこと
- 日誌をつける間は、ふだんどおりの水分と生活で。無理に減らすと、ふだんの状態が分からなくなります
- 計量カップを決めて、同じもので測る
- 夜間の記録は、起きた時刻と量だけ。細かく書こうとして眠れなくならないように
- 4回ごとの記録は、同じ曜日に合わせると比べやすくなります
- 記録した用紙は捨てずに保管する。半年後、1年後に見返すと、季節や生活の変化との関係が分かります
- 家族に頻尿の方がいれば、同じ方法を勧める。受診のきっかけになります
頻尿の考え方、咳やくしゃみでの尿漏れ、鍼をする部位の詳しい説明は、それぞれの解説にまとめています。