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泌尿器と鍼灸

泌尿器の悩みに鍼をどこに置くか。下腿・仙骨・骨盤底の刺鍼部位と狙い

頻尿、尿漏れ、骨盤痛で鍼をする場所は、すねの内側、仙骨のまわり、骨盤底の3つのエリアに分かれます。それぞれの狙い、症状によって始める場所と切り替える順番がどう変わるか、鍼通電の流れと安全のことをまとめました。

公開 更新 症状:尿漏れ・慢性骨盤痛・頻尿・尿意切迫感

鍼をする3つのエリアと狙い

腰から足までの体の輪郭に、すねの内側・仙骨のまわり・骨盤底の3つのエリアとそれぞれの狙いを示した図解
鍼をする3つのエリア。症状の種類で、始める場所と切り替える順番が変わります。

この記事の要点

  • 鍼をする場所は3つのエリアです。すねの内側は過敏な膀胱の反射を落ち着かせ、仙骨のまわりは反射の抑制と骨盤内の循環に、骨盤底は締まる感覚を引き出す、またはこわばりをゆるめる狙いです。
  • 症状の種類で、始める場所と切り替える順番が変わります。頻尿はすねから、尿漏れは骨盤底から、骨盤痛は痛みの主座から。
  • 鍼に弱い電気を流す鍼通電を使うことが多く、刺激はごく弱く、トントンと脈打つ感覚です。

この症状の正体

尿を溜める、出すという働きは、膀胱の感覚が仙骨の高さで脊髄に入り、脳との間でやり取りすることで成り立っています。膀胱と尿道を下から支えるのが骨盤底の筋肉で、ここを陰部神経が通ります。頻尿は膀胱の過敏、尿漏れは骨盤底のゆるみ、骨盤痛は臓器・神経・筋肉のいずれかが中心です。

膀胱そのものに鍼が直接届くわけではありません。鍼が働きかけるのは、膀胱の反射に関わる神経の入口と、骨盤底の筋肉と神経です。この3つを体の外側から狙えるのが、すねの内側、仙骨のまわり、骨盤底です。

鍼をする3つのエリアと狙い

腰から足までの体の輪郭に、すねの内側・仙骨のまわり・骨盤底の3つのエリアとそれぞれの狙いを示した図解
鍼をする3つのエリア。症状の種類で、始める場所と切り替える順番が変わります。

なぜ鍼灸が関わるのか

3つのエリアには、それぞれ根拠があります。

すねの内側は、脛骨神経の領域です。海外では専用機器による脛骨神経刺激療法として、米国のガイドラインで中等度、欧州のガイドラインで強い推奨を受けている部位で、鍼と通電でほぼ同じ刺激ができます。体への負担が最も少なく、衣服を脱がずに受けられます。

仙骨のまわりは、仙骨神経の領域で、膀胱の反射に最も近い入口です。日本の過活動膀胱診療ガイドラインに使用部位として挙げられ、国内で1990年代から研究が続いています。仙骨まわりの鍼で、慢性前立腺炎の痛みとともに前立腺周囲の静脈のうっ滞が改善したという国内の報告があり、骨盤内の循環への働きかけの根拠です。

骨盤底は、陰部神経の領域です。腹圧性尿失禁では、骨盤底筋トレーニングへの鍼通電の上乗せで尿漏れの量と症状スコアが改善したという比較試験があります。骨盤痛では、骨盤底のこわばりが9割以上に見られ、深部に届く刺激の方が浅い刺激より良い結果だったという報告が、この部位を使う根拠です。

鍼灸の前に確かめること

血尿、排尿時の痛み、発熱、尿が出にくい感じがある方は、鍼灸の前に泌尿器科か内科を受診してください。そのうえで、部位を決める前に次を確認します。

  • 症状の種類。頻尿か、腹圧性の尿漏れか、骨盤痛か、混ざっているか。始める場所が変わります
  • 排尿日誌と質問票。膀胱に溜められないタイプか、尿の量の問題か
  • 骨盤底の筋肉がゆるんでいるか、こわばっているか。締める方向かゆるめる方向かが変わります
  • 鍼通電を使う場合、ペースメーカーなどの植込み型の医療機器を使っていないか
  • 妊娠中、または妊娠の可能性があるか。仙骨と骨盤底への刺激は避けます
  • 血液をさらさらにする薬を飲んでいないか。内出血が出やすくなるため、刺し方を調整します

ご注意

骨盤底への鍼は、下着を部分的にずらして行います。事前に説明し、同意をいただいてから行います。不安な方は、すねと仙骨だけで進めることもできます。

どこに、どういう狙いで鍼をするか

すねの内側(脛骨神経の領域)

くるぶしの上、すねの骨の内側の縁にある三陰交(さんいんこう)のあたりです。細い鍼を置き、弱い電気を流します。狙いは、過敏になった膀胱の反射を落ち着かせることです。頻尿、尿意切迫感、臓器が主座の骨盤痛で最初に選びます。

仙骨のまわり(仙骨神経の領域)

お尻の上、仙骨の中ほどにある中髎(ちゅうりょう)と、その上下の穴の位置です。うつ伏せで、仙骨の穴に向けて鍼を置きます。狙いは、膀胱の反射の抑制と、骨盤内の循環です。すねの刺激で変化が乏しいときに加え、骨盤内のうっ滞を伴う痛みでも使います。

骨盤底(陰部神経の領域)

お尻の下、肛門の脇にある会陽(えよう)と、その周囲です。横向きかうつ伏せで行います。狙いは症状で逆になります。腹圧性尿失禁では速めの周波数で締まる感覚を引き出し、骨盤痛やこわばりによる頻尿ではゆっくりした周波数か通電なしで、こわばりをゆるめます。骨盤痛では、その外側の深部の筋肉(内閉鎖筋のまわり)にも届かせます。

症状別の順番

頻尿は、すね → 仙骨 → 骨盤底の順に、反応を見ながら切り替えます。腹圧性尿漏れは、骨盤底から。トレーニングを主軸に、通電を上乗せします。骨盤痛は、痛みの主座から。臓器ならすねと仙骨、神経と筋肉なら骨盤底です。

鍼通電

3つのエリアのいずれかに鍼を置き、弱い電気を20〜30分流します。刺激はごく弱く、トントンと脈打つ感覚です。骨盤底では、肛門のまわりがきゅっと締まる感覚が出ます。

鍼通電(鍼に弱い電気を流す)の流れ

すね・仙骨・骨盤底のいずれかに鍼を置き、弱い電気を流し、20〜30分休み、鍼を抜くという鍼通電の流れと、刺激の弱さやペースメーカー・妊娠中の注意を示す図解
鍼通電の流れ。刺激はごく弱く、ペースメーカーや妊娠中の方は事前にお伝えください。

時期と通い方の目安

最初に選んだ部位で4回は続けます。毎回変えると、どの部位に反応があったかが分からなくなるからです。4回目に排尿日誌と質問票で測り直し、変化がなければ次の部位へ切り替えます。週1回で始め、8〜12回で判定します。

分かっていること(研究の報告)

数字は「研究でそういう報告がある」という意味で、効果を保証するものではありません。効果には個人差があります。

  • すねの内側を通る脛骨神経への刺激は、専用機器による脛骨神経刺激療法として、米国泌尿器科学会で中等度、欧州泌尿器科学会で強い推奨を受けています(2024年)。日本では機器が未承認で、鍼と通電で同じ部位に刺激します。
  • 日本の過活動膀胱診療ガイドライン(第3版・2022年)は、鍼治療を「行ってもよい(C1)」として収載し、仙骨まわりを含む使用部位を挙げています。
  • 仙骨まわりの鍼で、慢性前立腺炎の痛みとともに前立腺周囲の静脈のうっ滞が改善したという国内の報告があります(2004年)。
  • 腹圧性尿失禁では、骨盤底への鍼通電をトレーニングに上乗せした群で、偽の通電より尿漏れの量と症状スコアが改善しました(2023年)。
  • 慢性骨盤痛では、深部に届く刺激が浅い刺激より良い結果でした(2017年)。報告された有害事象は、大部分が軽い皮下出血でした(2022年)。

ポイント

部位の名前は古くからのものですが、当院が選ぶ根拠は、ガイドラインと研究で使われている部位であることと、反応を見ながら切り替えられることの2つです。

あわせて行うこと

  • 鍼の後は、その日の激しい運動と長風呂を避ける。だるさが出ることがありますが、たいてい翌日には抜けます
  • 仙骨と骨盤底は内出血が出やすい場所です。数日で消えますが、気になる方は事前にお伝えください
  • 鍼は使い捨てで、1回ごとに新しいものを使います
  • 下半身を冷やさない。腰まわりと足首を温める
  • 施術中に尿意や痛みの変化があったら、その場で教えてください。部位を決める手がかりになります

症状ごとの考え方は、頻尿、咳やくしゃみでの尿漏れ、慢性骨盤痛のそれぞれの解説にまとめています。測り方は排尿日誌の解説、トレーニングのやり方は骨盤底筋トレーニングの解説をご覧ください。