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難聴・耳鳴りと鍼灸

耳の不調に鍼をどこに置くか。耳のまわり・首・手の刺鍼部位と狙い

難聴や耳鳴りで鍼をする場所は、耳のまわり、首の後ろと肩、手の甲の3つのエリアに分かれます。それぞれの狙い、研究で共通して使われている部位、弱い電気を流す鍼通電の流れ、刺激の感覚と安全のことをまとめました。

公開 更新 症状:突発性難聴・耳鳴り・難聴・聞こえにくさ

耳の不調に使う鍼の部位

横向きの頭部と首・肩の輪郭と手の甲に、耳のまわり・首の後ろと肩・手の甲と前腕の3つのエリアとそれぞれの狙いを示した図解
鍼をする3つのエリア。耳のまわりは内耳へ向かう血流と神経の入口に、首と肩は首から耳への血流に、手は体全体の反応に働きかけます。

この記事の要点

  • 鍼をする場所は3つのエリアです。耳のまわりは内耳へ向かう血流と神経の入口に、首の後ろと肩は首から耳への血流とこわばりに、手の甲と前腕は体全体の反応に働きかけます。
  • 部位は、突発性難聴と耳鳴りの研究で共通して使われているものを基本にし、首や顎を押して耳鳴りが変わる反応点を人ごとに加えます。
  • 鍼に弱い電気を流す鍼通電を耳のまわりで使うことがあります。刺激はごく弱く、トントンと脈打つ感覚です。

この症状の正体

耳の不調で鍼をする場所を決めるには、音がどう伝わり、どこで問題が起きているかを知る必要があります。音は外耳から中耳を通り、内耳の蝸牛で電気信号に変わり、聴神経を通って脳に届きます。突発性難聴は内耳の障害、耳鳴りはそこに脳の働きと首や顎からの感覚が重なって起こります。

内耳は骨の中にあり、鍼が直接届く場所ではありません。鍼が働きかけるのは、内耳へ血液を送る血管の通り道、聴覚に関わる神経の入口、そして首や顎からの感覚が耳からの信号と合流する脳の入口です。この3つを体の外側から狙えるのが、耳のまわり、首の後ろと肩、手の甲です。

耳の不調に使う鍼の部位

横向きの頭部と首・肩の輪郭と手の甲に、耳のまわり・首の後ろと肩・手の甲と前腕の3つのエリアとそれぞれの狙いを示した図解
鍼をする3つのエリア。耳のまわりは内耳へ向かう血流と神経の入口に、首と肩は首から耳への血流に、手は体全体の反応に働きかけます。

なぜ鍼灸が関わるのか

3つのエリアには、それぞれ根拠があります。

耳のまわりは、突発性難聴と耳鳴りの研究で最もよく使われている部位です。内耳へ向かう血流と、聴覚に関わる神経の入口に近く、動物実験では耳のまわりへの鍼の刺激が内耳の酸化ストレスを抑える遺伝子や神経を育てる因子に働いたと報告されています。人でも同じかは検証の途中です。

首の後ろと肩は、内耳へ血液を送る動脈が首の後ろを通る椎骨動脈の系統から分かれることが根拠です。頸性めまいの研究では、鍼を併用した群で椎骨動脈の血流速度が上がったというまとめがあります。もう1つ、首や顎の筋肉からの感覚が脳幹で耳からの信号と合流するため、首のこわばりは耳鳴りの音にも関わります。

手の甲と前腕は、古くから耳の不調に使われてきた遠隔の部位で、突発性難聴と耳鳴りの比較試験でも耳のまわりと組み合わせてほぼ共通して使われています。体全体の反応を引き出す狙いです。

鍼灸の前に確かめること

部位を決める前に、次のことを確認します。

  • 症状の種類と時期。突発性難聴の発症直後か、慢性の耳鳴りか、治療後に残った難聴か。狙いが変わります
  • 首を触って、硬さと押したときの反応が強い側。左右差があれば、そちらを重視します
  • 首の横、後頭部、顎を押して、耳鳴りの音が変わる場所があるか。あれば反応点として加えます
  • 鍼通電を使う場合、ペースメーカーなどの植込み型の医療機器を使っていないか
  • 血液をさらさらにする薬を飲んでいないか。内出血が出やすくなるため、刺し方を調整します
  • 妊娠中、または妊娠の可能性があるか

ご注意

耳のまわりの鍼は、耳鼻咽喉科で背景を確かめてから行います。片耳が急に聞こえにくくなった場合は、鍼より先に受診を。

どこに、どういう狙いで鍼をするか

耳のまわり(耳の前と後ろ)

耳の前には聴宮(ちょうきゅう)、聴会(ちょうえ)、耳門(じもん)が縦に並んでいます。口を開けるとくぼむ場所で、内耳へ向かう血流と神経の入口に働きかける狙いです。耳の後ろには翳風(えいふう)、完骨(かんこつ)があり、耳たぶの裏のくぼみと、その後ろの骨の出っ張りの下です。耳鳴りでは、こめかみの上の率谷(そっこく)を加えることがあります。鍼は細く、置く深さは浅めです。

首の後ろと肩

天柱(てんちゅう)と風池(ふうち)は、後頭部と首の境目にあります。首の後ろを通る血管と、後頭部の神経に近い場所で、首から耳への血流と、首のこわばりに働きかけます。肩井(けんせい)、肩外兪(けんがいゆ)は肩の上と肩甲骨の内側で、肩から首にかけての緊張を目標にします。首の横の胸鎖乳突筋は、押して耳鳴りが変わる反応点がよく見つかる場所です。

手の甲と前腕

中渚(ちゅうしょ)は手の甲の薬指と小指の骨の間、外関(がいかん)は手首の甲側から指3本分ひじ寄りにあります。どちらも耳の研究でほぼ共通して使われる部位で、体全体の反応を引き出す狙いです。

鍼通電

耳のまわりの2点の間に、鍼に弱い電気を流します。研究では、耳の前と後ろの点の間、あるいは耳の前の2点の間に、低い周波数で10〜30分流す設計が中心です。通常の鍼と比べて平均の聴力閾値の回復が早かったという報告があり、耳鳴りの比較試験でも使われています。刺激はごく弱く、トントンと脈打つ感覚で、痛みはほとんどありません。

鍼通電(鍼に弱い電気を流す)の流れ

耳のまわりに鍼を置き、弱い電気を流し、10〜30分休み、鍼を抜くという鍼通電の4つの流れと、刺激が弱いこと・ペースメーカーの注意を示す図解
鍼通電の流れ。刺激はごく弱く、ペースメーカーをお使いの方は事前にお伝えください。

時期と通い方の目安

部位は症状と時期で変わります。突発性難聴の発症直後は、耳鼻咽喉科の治療が始まっていることを確かめたうえで、耳のまわりと首の後ろを中心に週2〜4回。慢性の耳鳴りは、耳のまわりと反応点を中心に週1〜2回。治療後に残った難聴では、耳鳴りの苦痛度と首肩の緊張を目標に週1回。いずれも10回ごとに測り直し、変化が乏しければ部位を見直します。ただし聞こえの変化は回数を待たず、耳鼻咽喉科の検査で確かめます。突発性難聴の発症直後は、主治医の再検査の予定を優先してください。

慢性の耳鳴りや治療後に残った難聴では、最初に選んだ部位を10回は同じ場所で続けます。毎回変えると、どの部位に反応があったかが分からなくなるからです。10回目の測り直しで変化がなければ、反応点を探し直し、鍼通電の有無や刺激の強さを変えます。

分かっていること(研究の報告)

数字は「研究でそういう報告がある」という意味で、効果を保証するものではありません。効果には個人差があります。

  • 突発性難聴の比較試験をまとめた2024年の解析と、2026年の比較試験では、耳の前後(聴宮・聴会・耳門・翳風・風池)と手(外関・中渚)を組み合わせた設計が中心です。
  • 耳のまわりへの鍼通電と通常の鍼を比べた研究では、鍼通電の群の方が平均聴力閾値の回復が早いという報告です。
  • 耳鳴りの2026年の比較試験では、聴宮・翳風・完骨・率谷と、両側の中渚・外関、頭頂の百会を使い、2日に1回、計10回、1回30分という設計でした。
  • 首の横の筋肉を押して耳鳴りが変わる場所に鍼をした国内の症例集積では、押して変化があった例は全員に何らかの変化があったと報告されています。

ポイント

部位の名前は古くからのものですが、当院が選ぶ根拠は研究で共通して使われていることと、押して反応があることの2つです。流派による決まりではなく、人ごとに確かめて決めます。

あわせて行うこと

  • 鍼の後は、その日の激しい運動と長風呂を避ける。だるさが出ることがありますが、たいてい翌日には抜けます
  • 耳のまわりは内出血が出やすい場所です。数日で消えますが、気になる方は事前にお伝えください
  • 鍼は使い捨てで、1回ごとに新しいものを使います
  • 首と肩を温め、長時間の同じ姿勢を避ける。首の緊張は耳鳴りに関わります
  • 施術中に耳鳴りの音が変わったら、その場で教えてください。反応点を決める手がかりになります

症状ごとの考え方は、突発性難聴、耳鳴り、治療後も残る難聴のそれぞれの解説にまとめています。測り方はTHIと耳こすりテストの解説をご覧ください。