耳のまわり(3症状で共通)
耳の前の聴宮、聴会、耳門、耳の後ろの翳風、完骨。突発性難聴と耳鳴りの研究で最もよく使われる部位です。耳鳴りでは、こめかみの上の率谷を加えることがあります。鍼は細く、置く深さは浅めです。弱い電気を流す鍼通電を、耳の前後の2点の間で使うことがあります。
狙い:内耳へ向かう血流と、神経の入口
耳鼻咽喉科の治療と並行する鍼灸
突発性難聴、耳鳴り、治療後も残る聞こえにくさ。鍼灸の役割は、症状と時間で変わります
急に片方の耳が聞こえなくなった。耳鳴りが止まらない。治療を終えても聞こえにくさが残っている。耳の悩みは、症状の種類と発症からの時間で、鍼灸の役割が変わります。主役は耳鼻咽喉科の診断と治療で、鍼灸はそれと並行して、耳のまわりと首、顎、手から働きかけます。3つの症状に共通する仕組みと、どこに鍼をするか、何を測るかを1枚にまとめました。
金山駅 北口すぐ・2026年秋 開院予定。執筆・監修は医師の高杉浩司です。
鍼灸の立ち位置
鍼灸は、耳鼻咽喉科の診断と治療に代わるものではありません。特に突発性難聴は、発症から早く治療を始めるほど聴力の回復が良いことが分かっています。まず耳鼻咽喉科へ。鍼灸はその治療と並行して行います。
音は外耳から中耳を通り、内耳で電気信号に変わって、聴神経から脳に届きます。突発性難聴は内耳の障害で、耳鳴りは内耳からの信号が減った分を脳が補おうとして起こり、治療後も残る難聴は、一度失われた内耳の細胞が再生しにくいために続きます。3つに共通するのは、内耳が骨の中にあって鍼が直接届く場所ではないことです。鍼が働きかけるのは、内耳へ血液を送る血管の通り道、聴覚に関わる神経の入口、そして首や顎からの感覚が耳からの信号と合流する脳の入口です。

鍼灸の役割は、症状の種類と、発症からの時間で変わります。ご自身に近いものからお読みください。

内耳の障害で、原因ははっきりしていません。治療の開始が早いほど回復が良く、鍼灸は耳鼻咽喉科の治療への上乗せとして位置づけます。
くわしい解説を読む
耳だけでなく、音を処理する脳の働きと、首や顎からの感覚が関わります。鍼灸は耳のまわりと首、肩、顎に働きかけます。
くわしい解説を読む
聴力そのものを鍼で戻すのは難しい段階です。補聴器を含む耳鼻咽喉科の対応を主役に、残った耳鳴りや聞き取りの負担に働きかけます。
くわしい解説を読む耳の症状の多くは、耳鼻咽喉科で背景を確かめたうえで鍼灸を進められます。ただ、急いで治療を始めた方がよいものや、まれに別の病気が隠れていることがあります。次のようなときは、鍼灸より先に受診してください。
すでに耳鼻咽喉科にかかっている方は、聴力検査の結果と治療内容を確認したうえで施術に入ります。検査結果の控えをお持ちください。
次にあてはまる場合は、施術より先に受診をお願いしています。
すぐに救急へ
その日のうちか、翌日に受診
脈と一緒に鳴る耳鳴りや、片耳だけ少しずつ進む聞こえにくさは、急ぎませんが、一度耳鼻咽喉科で調べてもらってください。
鍼をする場所は、耳のまわり、首の後ろと肩、手の甲と前腕の3つのエリアです。3つの症状で部位はほぼ共通し、変わるのは狙いと、人ごとに探す反応点です。研究で共通して使われていることと、押して反応があることの2つを根拠に、人ごとに確かめて決めます。
耳の前の聴宮、聴会、耳門、耳の後ろの翳風、完骨。突発性難聴と耳鳴りの研究で最もよく使われる部位です。耳鳴りでは、こめかみの上の率谷を加えることがあります。鍼は細く、置く深さは浅めです。弱い電気を流す鍼通電を、耳の前後の2点の間で使うことがあります。
狙い:内耳へ向かう血流と、神経の入口
後頭部と首の境目の天柱、風池、肩の上の肩井など。内耳へ血液を送る動脈は、首の後ろを通る椎骨動脈の系統から分かれます。首を触って、硬さや押したときの反応が強い側を確かめてから鍼をします。首のこわばりが強い方ほど重視します。
狙い:首から耳への血流と、首肩のこわばり
手の甲の中渚、手首の甲側の外関。古くから耳の不調に使われてきた遠隔の部位で、突発性難聴と耳鳴りの比較試験でも耳のまわりと組み合わせてほぼ共通して使われています。耳鳴りでは頭のてっぺんの百会を加えることもあります。
狙い:体全体の反応を引き出す
耳鳴りでは、首の横の筋肉、後頭部、顎の噛む筋肉を順に押して、音が変わる場所(反応点)を探し、見つかればそこを重点にします。突発性難聴の発症直後は、耳のまわりと首の後ろを中心に聴力の回復を目標に。治療後も残る難聴では、部位は同じまま、狙いを耳鳴りの苦痛度、耳の詰まり感、首肩の緊張に置きます。
狙い:症状と時期に合わせた目標

鍼通電の刺激はごく弱く、トントンと脈打つ程度で、痛みはほとんどありません。ペースメーカーなどの植込み型の医療機器をお使いの方、血液をさらさらにする薬を飲んでいる方、妊娠中または妊娠の可能性がある方は、事前にお伝えください。
突発性難聴は発症からの時間で役割が変わり、日が浅いほど急ぎます。耳鳴りと治療後に残る難聴は、10回を一区切りにして、同じ物差しで測り直しながら進めます。最初に選んだ部位は10回は同じ場所で続け、毎回変えないのが当院の決まりです。
耳鼻咽喉科の治療が主役です。発症から2週間以内、できれば7日以内に治療を始めるほど聴力の回復が良いことが分かっています。鍼灸は治療開始後に上乗せとして週2〜4回。研究では発症14日以内に、週4回を1〜2週間という設計が中心です。
追加の治療と並行して、残った聞こえにくさ、耳の詰まり、耳鳴りに働きかけます。聴力検査の結果が出るたびに数字を一緒に確認し、6週間から3か月で続けるかどうかを判断します。3か月以降は聴力の回復が固定に向かう時期で、残った耳鳴りや耳閉感に目標を切り替えます。
耳鳴りの研究は週1〜3回で10〜20回という設計が中心です。初回に苦痛度の質問票と音の大きさの目盛りを記録し、10回目に同じ物差しで測り直します。変化があれば継続、なければ反応点と目標を見直します。20回で目標に届けば間隔を空けて維持に入り、届かなければ耳鼻咽喉科での再評価をお勧めします。
発症からの時間による急ぎはありません。週1回で10回を一区切りにし、10回目に測り直して継続か見直しかを決めます。20回で目標に届けば、2〜4週間に1回の維持に移ります。補聴器の相談は鍼灸と並行して、先延ばしにしないでください。
聴力そのものは、耳鼻咽喉科の聴力検査が物差しです。鍼灸院で聴力を測ることはできません。当院が測るのは、耳鳴りの苦痛度、音の大きさ、聞こえの左右差の目安、そして眠れた日数などの生活の指標です。初回に基準をとり、10回ごとに同じ物差しで測り直します。
周波数ごとに、どのくらい小さな音まで聞こえるかをデシベルで測る純音聴力検査が基本です。突発性難聴の回復の判定も、この検査の5つの周波数の平均で決まります。検査結果の控えをお持ちいただき、前後で数字がどう動いたかを一緒に見ます。
主治医の指示どおりに受ける25の質問に、はい、ときどき、いいえで答えて0〜100点にします。日本語版の研究で、20点以上の減少、または16点以下が変化の目安とされ、当院もこの基準を使います。音の大きさとは別に、0〜10の目盛りも記録します。
初回と10回ごと椅子に座って力を抜き、両耳の前で指をこすって、聞こえ方を片耳ずつ確かめ、左右差と前回との違いを比べます。聴力検査の代わりではなく、変化を見るための簡単な目安です。あわせて、この1週間で眠れた日数、集中できた時間を記録します。
初回と10回ごと
数字は「研究でそういう報告がある」という意味で、効果を保証するものではありません。効果には個人差があります。
28の比較試験、2,456人分をまとめた解析では、標準治療に鍼を加えた群の純音聴力が、加えない群より平均で約10.7デシベル良好でした。研究ごとのばらつきが大きく、質に課題があるという評価です。
Ren W, et al. Integr Med Res 2024
発症14日以内の84人を対象に、鼓膜の内側へのステロイド注射に本物の鍼を加えた群は、偽の鍼を加えた群より2週間後の聴力の改善が約9デシベル大きい結果でした。週4回を1〜2週間という設計です。
Yang Y, et al. QJM 2026
耳鳴りのある45人のうち35人で、頭や首の動きで音が変わり、顎を前に出す動きで最も変わりやすかったという報告です。首と顎に働きかける根拠です。
Simmons R, et al. Semin Hear 2008
耳鳴りのある方に鍼をした前後で脳の画像を比べた研究では、不安に関わる扁桃体と前頭部の機能的なつながりが弱まっていました。音そのものより、音をつらく感じさせる回路に働いている可能性が示されています。
Zhang Y, et al. Front Neurol 2022
耳鼻咽喉科の治療後も難聴と耳鳴りが残った25人に、週2回、10週間で計20回の鍼を行った研究では、4つの周波数の平均聴力は変わらなかった一方、言葉の聞き取りと耳鳴りの苦痛度(THI)が改善していました。当院が聴力そのものではなく、聞き取りと耳鳴りを目標にする根拠です。
Kaya Çelik E, et al. Turk J Ear Nose Throat 2020
耳の分野で鍼治療は「研究が紹介されている」段階で、推奨の段階づけはありません。日本の手引きとガイドラインが強く勧めているのは、突発性難聴では早期の治療開始、耳鳴りでは仕組みを知る教育的カウンセリング(推奨度1B)と、難聴がある方の補聴器(推奨度1A)です。当院の進め方は、この確かなものを土台にして鍼を足す形です。
鍼以外に、ガイドラインで勧められている確かな方法を一緒に進めます。鍼灸院に通わなくてもできることです。
このページは医師が執筆・監修し、施術はハリメド鍼灸院の鍼灸師が行います。各解説の内容について医師が確認した日付は、記事ごとに表示します。
豊田土橋リウマチクリニック 院長/医師×鍼灸師プラットフォーム「HARI×MED(ハリメド)」管理者
金山ハリメド鍼灸院(2026年秋 開院予定)
急性感音難聴診療の手引き 2018年版 参照
耳鳴診療ガイドライン 2019年版 参照
耳の分野で鍼治療は「研究が紹介されている」段階で、推奨の段階づけはありません。強く勧められているのは、早期の治療開始(突発性難聴)、教育的カウンセリングと補聴器(耳鳴り)です。
初回のご相談で多い質問をまとめました。ここに無いことは、問診のときに何でもお聞きください。
いいえ。突発性難聴は時間との勝負で、発症から2週間以内、できれば7日以内に治療を始めるほど聴力の回復が良いことが分かっています。
鍼灸は耳鼻咽喉科の治療への上乗せです。治療をやめて鍼に替えるのではなく、治療に鍼を足すという考え方で、鍼を受けている方も治療と聴力検査は続けてください。
治療開始後に、上乗せとして週2〜4回が目安です。研究では発症14日以内に、週4回を1〜2週間という設計が中心です。
2週間から3か月は追加の治療と並行し、聴力検査の結果が出るたびに数字を一緒に確認します。3か月を過ぎたら、残った耳鳴りや耳閉感に目標を切り替えます。
音を消すことを約束はできません。鍼灸が目標にするのは、音が「気にならない時間」が増えること、眠れる日が増えることです。
耳鳴りの苦痛度の質問票(THI)と眠れた日数を初回と10回ごとに測り、変化で判断します。
関係があります。首や顎の筋肉からの感覚は、脳幹で耳からの信号と合流します。耳鳴りのある45人のうち35人で、顎や首の動きで音が変わったという報告があります。
当院では、首の横、後頭部、顎を押して音が変わる場所(反応点)を探し、そこを重点に鍼をします。施術中に音が変わったら、その場で教えてください。
耳鳴りの研究は週1〜3回で10〜20回という設計が中心です。当院では週1〜2回で10回を一区切りにし、10回目に同じ物差しで測り直します。
変化がなければ反応点と目標を見直し、20回で目標に届かなければ耳鼻咽喉科での再評価をお勧めします。
正直にお伝えすると、この段階で聴力そのものを鍼で戻すのは難しいです。治療後も難聴が残った25人に20回の鍼を行った研究では、聴力の数値は変わりませんでした。
一方、同じ研究で、言葉の聞き取りやすさと耳鳴りの苦痛度は改善していました。当院の目標は、耳鳴りの苦痛度、耳の詰まり感、首肩の緊張、睡眠に置きます。
聞こえを補う主役は補聴器と耳鼻咽喉科で、鍼灸はその主役にはなれません。補聴器は装用に慣れるまでに時間がかかり、聴力が落ちきってから始めるより、早いほど慣れやすいことが知られています。
難聴を放置すると認知機能にも影響することが分かっており、補聴器の相談は鍼灸と並行して、先延ばしにしないでください。
はい。むしろ、耳鼻咽喉科で難聴や中耳の病気がないことを確かめてから鍼灸に進むのが当院の順番です。聴力検査の結果の控えをお持ちください。
通院中の方は、主治医に「鍼も受けている」と伝えておくと安心です。自己判断で薬や検査をやめる理由にはなりません。測った結果は、ご希望があれば耳鼻咽喉科との情報共有にも使います。
テーマごとに、何が起きているのか、何を確かめ、どこにどういう狙いで鍼をするのか、研究で分かっていることを1本ずつ書いています。執筆・監修は医師の高杉浩司です。
耳鳴りと鍼灸。首と顎から音が変わる理由まわりに音がないのに音を感じる耳鳴り。つらさは音の大きさより、脳が「危険な音」として扱い続けることで増します。首や顎を動かすと音が変わるのはなぜか、鍼灸がどこに働きかけるのか、研究で分かっていることを整理しました。
耳鳴りと聞こえを数字で測る。THI(耳鳴苦痛度質問票)と耳こすりテスト「なんとなく楽になった」ではなく、数字で確かめる。当院が耳鳴りと聞こえの経過を追うために使っている質問票と簡単なテスト、そして耳鼻咽喉科の聴力検査との役割分担を説明します。初回に基準をとり、10回ごとに同じ物差しで測り直します。
治療後も残る難聴・耳閉感に、鍼灸ができること突発性難聴の治療を終えたあとに残った聞こえにくさや耳の詰まり、年齢とともに落ちてきた聞こえ。この段階で聴力そのものを鍼で戻すのは難しいです。では鍼灸は何を目標にするのか、補聴器との役割分担を含めて率直に書きました。
耳の不調に鍼をどこに置くか。耳のまわり・首・手の刺鍼部位と狙い難聴や耳鳴りで鍼をする場所は、耳のまわり、首の後ろと肩、手の甲の3つのエリアに分かれます。それぞれの狙い、研究で共通して使われている部位、弱い電気を流す鍼通電の流れ、刺激の感覚と安全のことをまとめました。
突発性難聴と鍼灸。2週間の壁と、治療への上乗せある日突然、片方の耳が聞こえにくくなる突発性難聴。主役は耳鼻咽喉科の早期治療で、鍼灸はその上乗せです。発症からの時間で何が変わるのか、どこにどういう狙いで鍼をするのか、研究で分かっていることを整理しました。
耳鳴りの教育的カウンセリングと音響療法。仕組みを知り、静けさを避ける日本の耳鳴診療ガイドラインが強く勧めているのは、鍼でも薬でもなく「仕組みを知ること」と「静けさを避けること」です。当院が鍼灸の土台に置いている教育的カウンセリングと音響療法の中身を、ご自宅でできる形で説明します。