この記事の要点
- 柳原法は、顔の10の動きをそれぞれ0・2・4点で採点し、40点満点で麻痺の程度を表す方法です。耳鼻咽喉科でも使われています。
- 初診時の点数で、22点以上が軽症、12〜20点が中等症、10点以下が重症の目安。10点以下は回復に時間がかかりやすいことが分かっています。
- 当院は初回に採点し、4週ごとに同じ方法で測り直します。発症直後でまだ受診していない方は、先に医療機関へ。手足のしびれや言葉のもつれを伴うときは、すぐに救急車を呼んでください。耳鼻咽喉科と同じ物差しなので、経過をそのまま共有できます。
この症状の正体
顔面神経麻痺の経過を追うには、「動くようになった気がする」ではなく、同じ物差しで繰り返し測る必要があります。日本で広く使われているのが柳原法(40点法)です。1976年に愛媛大学の柳原先生が提唱した方法で、顔の10の動きをそれぞれ0点、2点、4点で採点し、合計40点で麻痺の程度を表します。
10の項目は、安静時の左右差、額のしわ寄せ、軽く目を閉じる、強く目を閉じる、片目をつむる、鼻を上げる、頬をふくらませる、口笛、「イー」、「への字」です。健康な側と同じように動けば4点、少し動くが左右差があれば2点、ほとんど動かなければ0点。全部が健康な側と同じなら40点、全く動かなければ0点です。
耳鼻咽喉科では、これに神経の検査(ENoG・誘発筋電図)を組み合わせて見通しを立てます。神経の検査は、健康な側の筋肉の電気的な反応と比べて、麻痺側がどのくらい残っているかを百分率で示すもので、神経がどのくらい傷んだかを知る最も重要な検査です。鍼灸院では行えないため、結果をお持ちいただきます。
柳原法(40点法): 顔の10の動きを採点

なぜ鍼灸が関わるのか
鍼灸院が柳原法を使う理由は、耳鼻咽喉科と同じ物差しで経過を追うためです。2011年の手引きで鍼治療が「勧められない」とされた背景には、鍼灸側の報告が自然回復と区別できず、評価の方法も統一されていなかったことがありました。2023年のガイドラインで「弱く推奨」に変わったのは、柳原法や神経の検査といった専門診療と共通の評価で効果を測った研究が蓄積されたからです。
当院が同じ物差しを使えば、鍼灸院で何をしてどう変わったかを、主治医がそのまま読めます。主治医との情報共有を前提にする当院にとって、これは欠かせません。
もう1つ、柳原法の点数は、鍼灸の目標を決める材料になります。初診時の点数で見通しが大きく違い、重症の方は後遺症を作らないことに早くから重心を置く必要があります。点数を知らずに鍼をすることは、当院ではしません。
鍼灸の前に確かめること
初回に、次の基準をとります。
- 柳原法で採点する。10の動きを順に行っていただき、健康な側と比べて0・2・4点をつける
- 耳鼻咽喉科での柳原法の点数と、神経の検査(ENoG)の値。結果の控えをお持ちください
- 目の閉じ方。完全に閉じられるか、白目が見えるか。閉じられない場合は、目の乾燥や傷を防ぐ手当てが必要です。目薬や眠るときの保護について、耳鼻咽喉科か眼科で相談してください
- 共同運動の有無。口を動かしたときに目が閉じるか、目を閉じたときに口角が動くか
- こわばり、つっぱりの自覚と場所
- 発症からの日数と、薬の内容
採点は、同じ人が、同じ順序で、同じ明るさの部屋で行います。測るたびに条件が変わると、点数の変化が本当の変化か分からなくなるからです。
どこに、どういう狙いで鍼をするか
この解説は測り方が主題なので、採点の着眼点を書きます。
安静時の左右差は、何もしていないときの口角の高さ、鼻唇溝(ほうれい線)の深さ、目の開き方を見ます。額のしわ寄せは眉を上げたときの額のしわの本数と深さ。軽く目を閉じると強く目を閉じるは、閉じきれるかと、閉じたときのまつ毛の見え方。片目をつむるは、麻痺側だけでウインクできるか。鼻を上げるは小鼻の動き。頬をふくらませるは空気が漏れないか。口笛と「イー」と「への字」は口の形の左右差です。
初診時の合計点で、22点以上が軽症、12〜20点が中等症、10点以下が重症の目安です。10点以下は回復に時間がかかりやすく、有意に予後が悪いことが報告されています。神経の検査の値と合わせて、見通しを立てます。
鍼灸院でできる見通しの手がかりが、もう1つあります。神経の通り道に鍼を置いて弱い電気を流し、顔の筋肉がぴくっと動くかを見る方法です。この反応がはっきりしている方は神経の検査の値が高く、弱い方と動かない方は同じくらい低いという報告があり、柳原法と組み合わせて見通しを立てます。
初回受診時の点数で、見通しが分かれる

時期と通い方の目安
まだ受診していない方は、採点や鍼灸より先に、その日のうちか遅くとも翌日に耳鼻咽喉科を受診してください。手足のしびれや力の入りにくさ、言葉のもつれ、強い頭痛を伴うときは、脳の病気の可能性があるため、すぐに救急車を呼んでください。当院では初回に採点し、4週ごとに同じ方法で測り直します。急性期は週1〜3回、回復期は週1回が目安です。途中で麻痺が強くなったときは、測り直しを待たずに耳鼻咽喉科に相談してください。手足のしびれや言葉のもつれなど、顔以外の症状が出たときは、すぐに救急車を呼んでください。
測り直しで見るのは、合計点だけではありません。どの項目が上がったか、どの項目が止まっているか。額が戻っても口が戻らない、目は閉じるようになったが共同運動が出てきた。項目ごとの動きが、次の4週で何を目標にするかを決めます。
測った点数は記録に残し、ご希望があれば耳鼻咽喉科との情報共有にも使います。同じ物差しなので、そのまま読んでいただけます。
分かっていること(研究の報告)
- 柳原法は、10項目を0・2・4点で採点する40点満点の方法で、日本顔面神経学会が採点法を示しています。
- 初診時の点数が10点以下の重症例は、有意に予後が悪いという報告です。22点以上が軽症、12〜20点が中等症の目安です。
- 神経の検査(ENoG)は、健康な側と比べた麻痺側の筋肉の電気的な反応の割合で、神経の傷みの程度を示します。値が高い群は1〜2か月で治癒する例が多く、低い群は半年近くかかったという国内の症例集積があります。
- 鍼通電で顔の筋肉がはっきり動く群は神経の検査の値が有意に高く、弱い群と動かない群は同じくらい低いという報告があります。
ポイント
2023年のガイドラインは、研究で柳原法や神経の検査が使われたことを根拠の1つに、鍼治療の評価を変えました。同じ物差しで測ることは、患者さんのためであると同時に、鍼灸が医療の中で役割を持つための条件でもあります。
あわせて行うこと
- 耳鼻咽喉科での検査結果と点数の控えを、通院のたびにお持ちください
- ご自宅では、鏡の前で「目が閉じるか」「口を動かしたとき目が細くならないか」だけを週1回確かめる。採点のために表情をくり返す練習はしない
- 顔の写真を、同じ場所、同じ明るさで4週ごとに撮っておくと、点数と合わせて変化が分かります
- 点数が上がらなくても、こわばりや共同運動が増えていなければ、それも大事な経過です。両方を見ます
急性期、回復期、後遺症のそれぞれの考え方は、各解説にまとめています。